この記事は、「書き手と編み手の Advent Calendar 2019」の「9日目」の記事です。
【目次】
編集者とは何する人?
1990年にコンピュータ技術情報誌の編集部*1に潜り込んでから、およそ30年。その間、執筆仕事の割合が多くなったり、あるいは管理職として過ごす時間が増えたりしたこともありますが、何だかんだと「編集者」であることは続けてきました。
その「編集者」として、いったいどんなことをしてたのかというと、私の言葉で言えば、
「情報の出し手」と「情報の受け手」を結ぶための一切合切
ということになります。言うなれば、
東に面白そうなネタがあると聞けば、行ってどんなものか実際に自分の目で確かめてきたり、
西に言いたいことがある人がいれば、行ってその思いに耳を傾けてきたり、
南に困っている人がいれば、行ってどんな情報を欲しているのか聞き取ったり、
北に筆が進まない筆者がいれば、行って怖がらなくてもいいと言い、話し相手になって書きたいことを引き出したり、
みたいな感じ。
もちろん、人によって、あるいはチーム(会社とか)の方針によって、編集者が何をどこまでやるかは違ってくると思います。私は、フリーランスという立場で多様なプロジェクトにかかわることが多かったので、自然といろんなことをする役割になった面はあります。
編集者の理想
どんな役割かによらず、ほとんどの編集者が共通して持ってる理想は、「読者のためになる」ということではないでしょうか。出版(アウトプット)するのは「読者」(情報の受け手)がいるからですし、その読者が最も望んでいるのは「ためになる」ことなのは自明です。
また、「ためになる」ことが何なのか、読者自身が気づいてないことも、たくさんあります。そういう場合は、そのことにいち早く気づいている人を見つけ、その人が持っている情報を分かりやすく伝えることを考えるのも編集者の役割です。次にやってくる新しいムーブメントは、必ず真っ先に気づいている人がいるものです。そうした「情報の出し手」(著者)になり得る人たちをキャッチし、適切なタイミングと方法で世に送り出すのも、多くの編集者が目指していることであります。
「読者のためになる」アウトプットを作るためには、「読者」のことをよく知る必要があります。そして、新しい動きにいち早く気づいている「著者」(になり得る人)を見出すには、その界隈の動向にアンテナを張っておくことが不可欠でしょう。
すべてはコミュニティにある
IT業界においては、「コミュニティ」という存在が、それらを実践するための格好の場になっています。
「読者」については、言わずもがなでしょう。コミュニティに参加して、いろんな人のお話を伺うことは将来の読者の声に耳を傾けることに他なりません。
「著者」(になり得る人)についてはどうでしょうか。
新しい技術が出てくると、いち早くそれに気づいた人が情報収集を始めます。そして、そういう人が他にもいると分かると、それぞれの学びを加速させるために、情報交換する場が作られます。そこに集まる仲間が一人二人と増えていくと、あるところで「コミュニティ」として外部から観測可能な状態になります。この「いち早くそれに気づいた人」というのは、実は、その時点ですでに既存のコミュニティに参加している人であることが多いというのが、これまでの私の経験則です。つまり、既存のコミュニティに参加することで、これから新しく生まれるであろうコミュニティの「気配」を、いち早く感じ取れる可能性が高いのです。
というわけで、(特にIT業界の)編集者にとって、コミュニティはとても重要かつ貴重な場なのです。
コミュニティに育てられた編集者
特に私は、IT業界に何の繋がりもない(大学にも行かなかったので)状態で編集者になりました。何かの企画が持ち上がると、先輩編集者たちは「同期の知り合い」「恩師の伝手」などを駆使して著者を見つけ出してくるのに比べ、徒手空拳、何の繋がりも持ってなかったので大変でした。
そんな私が(記憶にある限り)初めて接触したコミュニティが、日経MIX*2のMINIX会議室でした。たまたま参加した初めてのオフ会で、後にLinux活用連載*3を執筆いただくことになる生越さんと繋がることができました。
それ以降も、Linuxや、後にオープンソースと呼ばれることになるムーブメントの企画や記事をたくさん世に送り出すことができたのは、様々なコミュニティとの繋がりが広がり、それらが結実したからです。その意味で私は、コミュニティによって育てられた編集者と言えるかもしれません。*4
(了)